著者:絲山秋子
東京都出身。早稲田大学卒業後、住宅設備機器メーカー営業職として数度の転勤を経験。1998年に躁鬱病を患い休職、入院。入院中に小説の執筆を始める。2001年退職。
『沖で待つ』は、営業職としての経験が、
本作『逃亡くそたわけ』は、自身のメンタル疾患の
経験が活かされている気がします。
あらすじ
自殺未遂がばれ、入院させられた「あたし」は、退屈な精神病院からの脱走を決意。
同じく病院にいた名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、脱走。
彼のぼろぼろの車でのあてのない逃亡の旅が始まります。
道中、メンタル疾患の症状、幻聴に悩まされ、なごやんと衝突しながらも、
車は福岡から、阿蘇、さらに南へ疾走する。
青春ロードムービー的な良さがあります!
おすすめポイント① 2人のやりとり
舞台は九州で、主人公の「あたし」はバリバリの博多弁で話します。
「なごやん」は、最初は東京出身と言い張っていますが、
それは名古屋コンプレックスからくる嘘でした。
「あたし」は、そんな「なごやん」をからかうのですが
その会話のやりとりが漫才のようで楽しいです。
「あたし」が訛っているのもいいですね。
本当に他愛のない20代のともだちの会話が続くのですが
ふと、涙がこみあげてきました。
気にせずにそのまま続きを読んだ後、
あの涙がこみあげてきたシーンはどこだろうと
ページをさかのぼってみたのですが見つかりません。
2人の本当に何気ない会話が、わたしはうらやましかったのだと思います。
おすすめポイント② こんな旅がしたい
現在、コロナ禍にあって、自粛生活が続いています。
そんなときに本書を読むとこんな旅がしたいなぁと思います。
あてのない2人の旅は、九州の観光スポットばかり、
お互いのお国自慢をしながら、お互いの地元の良さを知り
交流を深めていきます。
謎のご当地名物を食べたり、阿蘇山の雄大さを目の当たりにしたり
温泉に入ったり、旅にはつきもののトラブルにみまわれたり・・・
ああ!旅がしたい!
おすすめポイント③ 旅の終わり
旅には出発地があれば、「ゴール」があります。
もともとメンタル疾患の2人は薬がなければ
症状がおさえられません。その薬もつき始め
どんなに2人が仲良くても長く同じ空間で過ごしていると
精神的にも楽になれずどんどん追い詰められます。
はじめは快調な旅も、じょじょに不安定さがにじみ出てきます。
果たして、2人の向かう「ゴール」はどこにあるのでしょうか。
***
会話中心で進みますし、全192頁なのでとても読みやすいです。
読書の秋にオススメの一冊です!

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