村上春樹の短編小説集、『神の子どもたちはみな踊る』より『蜂蜜パイ』について考察と感想を書きました。キーワードは「幸福はどこに “ある” か」です。
注意
生々しい性描写が少しありますので苦手な方にはオススメできません。
といっても全体の1%程度です。
また、この短編集には「阪神淡路大震災のあとの世界」という共通の設定があります。
Point ① 淳平の心理描写
登場人物は高槻、小夜子、淳平の3人。
3人は大学入学直後に意気投合し、楽しいキャンパスライフを共にするようになります。
しばらくすると高槻と小夜子が恋仲になります。
淳平も小夜子に憧れていたのでとてつもない喪失感に襲われ、一時期は大学に通えなくなるほどショックを受けます。
それからの淳平の人生は恋愛も仕事もライフスタイルも半端なものとなります。
そんな淳平の心理描写が巧みで自然と私も学生時代の恋愛を思いかえしました。
Point ② 幸福はどこにあるか
これを読んでいるあなたは幸福はどこにあると思いますか?
過去でしょうか それとも現在、または未来でしょうか?
淳平は「過去」にフォーカスして生きています。
「過去」を思い返しても後悔しかありません。
「未来」を憂いていても不安しかありません。
幸福とは「現在」 “今” “ここ” に “在る” ものなのです。
それに気づかずに「過去」に生きているといつまでも「現在」の幸福に気づかないままです。
「過去」にとらわれるといたずらに時間だけが流れます。
まさに淳平がそうです。
Point ③ 「書き出し」と、「最後」に注目
物語の「書き出し」と「最後」を対比してみると、登場人物の心境の変化がよく分ります。
本作の書き出しは作家である淳平が創作した「熊のまさきちくん」という童話を子供に読み聞かせるところからはじまります。
熊のまさきちは同じ熊のとんきちや人間たちと折り合いがつかない、という話になっています。
物語の結びにもこの童話の話が出てきますが、そのストーリーが変化しています。
最後は熊のまさきちととんきちが手を取り合いうまくやっていく、という物語になりました。
そして淳平はこれまでとは違う小説を書こうと決意します。
夢や希望、光にあふれるような小説を書こうと決意するのです。
この時に淳平に見えているのは「過去」ではなく、「現在」です。
“今” “ここ” に“在る” 幸福に気づいた瞬間に淳平に心境の変化がおとずれ、
前を向いて歩き出すことが出来たのです。
まとめ
人は過去を引きずったり、終わらない厄災を憂いたりしている限り幸福にはなれません。
(それはとてもむずかしいことですが)
それは “今” “ここ” に “在る” 幸福に気づけないからです。
幸福とは今を歩いている「現在」に“在る”もの、といメッセージを本書から感じ取りました。
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