「母性」とは包み込むような優しさや愛情のことです。
しかし、
この「母性」も度が過ぎると、子に悪影響を及ぼします。
今回はこの「母性」の観点から
夢野久作著、『少女地獄』から
短編『何んでも無い』について
徹底考察していきたいと思います。
母性と父性について
この話は、姫草ユリ子の強過ぎる「母性」に、
「父性」のない臼杵医師が飲み込まれる話です。
考察に入るまえに、
まずは、「母性」と「父性」についての説明いたします。
母性 とは
「母性」とは、
子どもを包みこむ優しさ、愛情のことを言います。
子どもは、母親から愛情を感じることで、
自己肯定感が生まれ、自信がつきます。
しかし、
この「母性」も度が過ぎると、
子を「包みこむ」を通りこして、
子を「飲みこんで」しまいます。
すると、
子は、自立できず、社会に出られなくなったり、
引きこもり、マザコンといった、問題に発展します。
父性 とは
「父性」とは、
①家族をまとめあげ、
② 子供に規範を示し、
③ 社会のルールを教え、
④ 裁く、断ち切るといった役割、機能があります。
「父性」が機能することで、
子は、自立し、社会で独り立ちできるようになります。
参考文献:父性の復権
強過ぎる母性と、弱過ぎる父性
姫草ユリ子の「母性」
姫草ユリ子は容姿が美しく、
愛想も良く、仕事もしっかりこなすので、
務める病院では、医師や同僚からはたちまち信頼を得て、
患者からは人気者になります。
臼杵医師の「父性」
一方で、本作の 主人公 臼杵医師をみると、
いつも妻と姉の意見に言われるがままです。
「彼女(姫草ユリ子)を雇って差し上げたら」
「(姫草ユリ子の)給料を上げてあげたら」
「彼女(姫草ユリ子)を許してあげたら」
と、その言葉をそのまま受け入れます。
姫草ユリ子は嘘をつき、
それを取り繕うために、
さらに壮大な嘘をつきつづけます。
そして、
彼女は、自分の虚構の世界を完成させるかのように、自殺してしまいます。
臼杵医師は、姫草ユリ子の嘘が判明してなお、彼女を憎むことができません。
この物語は強過ぎる「母性」が、よわよわしい「父性」を飲みこむ話なのです。
臼杵という名前の秘密
なんと「臼杵」という名前にも意味が隠されています!
「臼」は女性を指し、「杵」は男性を指します。
男女の和合を表し、女性(姫草ユリ子)を断ち切れない、主人公の性格を如実に表しています。
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