本書の帯にはこう書かれている。
・孤独や不安を癒し、自己評価を下げない
・ストレス耐性を上げ、攻撃性を和らげる
・世の中の欺瞞を見抜く強い「個」を育む
・世間に流されない“非社会性”が身に付く
「混沌とする世界を救うのは、ヘヴィメタルだ！」
と、書いてあります。
思わず、
「んなわけねーだろ」と、ツッコみたくなります。
しかし、本書の著者、中野信子先生は脳科学者、医学白紙、認知科学者です。
本書を読むと、脳科学からみた『メタル』の世界はとてつもなく深いもので、
帯の通り、現代にこそ必要な音楽だと感じました。
メタルは誰のための音楽か
「同一性の原理」というものがあります。
人は自らの精神状態を表す音楽に惹かれるのです。
例えば失恋したときにラブソングを聴くとつらくなるように、
失恋したときはやはり悲しい音楽が心を癒すのです。
メタルの世界観とは
「怒り」「破壊」「暴力」「マイノリティの叫び」
といったもの。
今一つ世の中と折り合いをつけられない、
例えばクラスや職場の人間となじめないような人、
社会からないがしろにされている人、抑圧された人の心を打つのがメタルです。
では、
アブナイ世界観に惹かれる「メタル」を聴く人たちは、
アブナイ人たちなのでしょうか？
「メタル」は癒しの音楽
イギリスのウォーリック大学の研究によると、メタルはストレス発散や、
欲求不満の解消に役立つ効果が認められました。
オーストラリアのクイーンズランド大学の
ジュヌビエーブ・ディングル博士の研究によると
メタルが各個人の怒りのレベルを上げるのではなく、
むしろほとんどの場合で「怒りをコントロールする」効果があることがわかりました。
※いずれも限定的な条件があります。
つまり、世のマイノリティの人たちが「怒り」を表現する「メタル」を聴くと、
自らの感情を爆発させ、反社会的な行動に出てしまうというよりはむしろ、
自分の心のスキマを埋めてくれる癒しとなっているのです。
メタル演奏者もマイノリティ側である
※ 以下、全てにおいて「もちろん一概には言えませんが」という一文が
ついたうえで述べています。
メタルのパフォーマーは、ショーのようなステージ、演出、
現代的なマーケッティング手法に頼ることなく
己のテクニックだけを磨き続け、技術で勝負します。
メタルのパフォーマーにはそういう気骨があります。
（ゆえに、メタルのパフォーマーには常軌を逸した
滑稽な伝説的エピソードが数多く存在します。）
オリコンチャートトップ10にランクインしたり、
メジャーシーンに踊り出たり、日の目を浴びることは少ない音楽です。
そこに、社会的マイノリティのメタルファンは
潔いかっこよさと、愛おしさを感じるのです。
よって、
ファンは、互いが同じ境遇であるかのようなつながりを感じ、
演者とファン、または、ファン同士が「家族」のような絆で結ばれているのです。
※ 本書をかいつまんで述べているので誤解を招いたり
これを読んでいる人の怒りを買うようなことがあれば全て私の責任です。
本書には結論にいたるまでに膨大な研究データ、
論文をもとに、ち密なロジックを積み重ねて、「メタル」をひも解いています。
読んで実感する
私は、ロックバンド「筋肉少女帯」のファンです。
筋肉少女帯はノンジャンルですが、ギターの橘高文彦さんはメタラーです。
ゆえに、本書を読んでいて、
わたしが筋肉少女帯との間に感じる特別な “何か” についてや、
なぜ惹かれるのかが、脳科学的に理解、実感することができました。
「メタルは足し算の音楽」という一節があります。
メタルミュージックにはたくさんの音が収められていながら
雑音には聴こえません。
「メタル」はち密な計算のもと、
音を足しながら空間を埋めていく、
理数学的な音楽なのです。
このように「メタル」を捉えた時、
鳴っている音の1つ1つを丁寧に聴いてみたくなり
もっと「メタル」が聴いてみたくなりました！
（私はもともと「メタル」のファンではありませんが、
「メタル」に興味を持ち、現在YouTubeで本書で紹介されているメタルバンドの曲を
片っ端からチェックしています！）
このような理数学的な音楽のように
理数学的な文学もあると思いました。
例えば村上春樹さんの小説は、
丸められた折り紙をていねいに広げ、また綺麗に畳んでいく展開に、
塊を割っていく割り算のような、因数分解のような、数学の証明のような
面白さがあります。だから美しいのでしょうね。
余談ですが、わたしが大好きなロックバンド筋肉少女帯の魅力を少し語ります。
カッコイイ曲に、ときにユニークな、ときに不思議で不条理な世界を描いた
歌詞が乗っています。
そこに、ボーカル大槻ケンヂさんの「怒り」「叫び」のような
ザラつきのあるシャウトが映えます。
各種音楽配信サービスやYouTubeなどで音源をチェックできるので
是非味わってみて下さい！
11/3にはニューアルバム『君だけが憶えている映画』もリリースされます！
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